旧国名「阿波」の名前を冠する阿波市には、興味深い歴史を有する神社が数多く鎮座しています。今からめぐるこの「建布都神社(たけふつじんじゃ)」もそのひとつ。この記事では、建布都神社の御由緒や御祭神についてお話しするほか、境内の様子についてもご紹介してまいります。
それでは、お宮へ参りましょう。
剣の神が住まう、建布都神社へ
御由緒・歴史
阿波市市場町香美字郷社本に鎮座する、建布都神社(たけふつじんじゃ)。創建年代は不明ですが、延長五年(927年)成立の「延喜式神名帳(全国の官社一覧)」にある「建布都神社」と同一の神社ではないかと推定されています。
なお、明治三年(1870年)に現在の名前に改称されるまでは、「平治権現」という名前で人々に愛されていました。
鳥居には、「式内郷社 建布都神社」と刻まれた神額がかけられています。「式内」とは、上述の「延喜式神名帳」に記載されたお宮を意味し、「郷社」は神社社格のこと。刻まれた文字からは、神社に関わる方達の強い想いを感じます。
鳥居付近で口を開ける「獅子」と、口を閉じる「狛犬」。まさに、阿吽の呼吸でこの神域を守り続けています。
清浄な空気が流れる、境内。交通量の少ないこの場所は本当に静かで、聞こえてくるのはただ風と木々の音だけ。そんな場所に身を委ねると、考え事やら悩み事から少しの間だけ解放されるような気持ちがします。
気がつけば、身も心もすっかりといい気分になりました。それではそろそろ、参拝しましょう。
建布都神社 / 拝殿・本殿
金の印字が特徴的な神額。その上部には鳳凰と思しき彫刻がありました。
拝殿の屋根にはあざやかな彫刻。
本殿。きれいに管理されていて、地域の方に愛されているのがよくわかりました。
御祭神
建布都神社の御祭神は、
・建布都神(たけふつのかみ)
・経津主神(ふつぬしのかみ)
・大山祇神(おおやまつみのかみ)
・事代主神(ことしろぬしのかみ)
です。
ここでは、神社の名前にもある「建布都神(たけふつのかみ)」について簡単にご紹介いたします。
古事記によれば、伊邪那岐命(イザナギノミコト)と伊邪那美命(イザナミノミコト)は「国生み」で日本を作った後、石や土、家屋、海といった自然の神々を生み出します。しかし伊邪那美命は、火の神である「火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)」を産んだ際に大火傷を負ってしまい、ついには亡くなってしまいます。(神避り)
妻である伊邪那美命を亡くした伊邪那岐命は怒り、火之迦具土神の首を天之尾羽張(アメノホハバリ)という長い剣で斬ってしまいます。その際、剣の根本についた血が岩石に飛び散った際に生まれたのが建布都神です。なお、建布都神は雷神であり、剣の神とされています。
古事記改版 (岩波文庫) [ 倉野 憲司 ]御神紋
御祭神が剣の神「建布都神」ならではの御神紋。「違い剣」でしょうか。
御朱印
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境内の様子
参拝を終えた後は、境内を散策しましょう。
日露役戦利品碑
境内の西側に視線を移すと、「日露役戦利品」と刻まれた巨石と、その上には砲弾らしきものが。大正五年に発行された市場町史によると、日露戦争の戦勝記念として建てられたのだとか。
山神社と天満宮
その脇にはそれぞれ、「山神宮」、「天満宮」、「天満宮」が鎮座。
建布都古墳と応安の板碑
境内東側にあるのが、「建布都古墳」。大正十年、近藤有地蔵さんによって発見されました。市場町内唯一の現存する古墳は、おそらく建布都古墳のみ。また、その近くには「応安の板碑」が静かに立っていますが古墳との関連があるかどうかは不明です。(応安年間:1368年から1375年)その他、この建布都神社は「香美城」跡であるとも伝わりますが、それはまた別の機会にご紹介できればと思います。
庚申塔
建布都神社の東端にある庚申塔。右側面部には「寛政七年(1795年)卯歳」、左側面部には「十一月吉日」とあります。
地神塔
地神塔。御祭神は「天照大神(あまてらすおおみかみ)」、「倉稲魂命(うかのみたまのみこと)」、「埴安媛命(はにやすひめのみこと)」、「少彦名命(すくなひこなのみこと)」、「大己貴命(おおなむちのみこと)」。
あとがき
小さな丘の上にあり、木々に囲まれた境内は言わば、身近にある「非日常」の空間のようでした。そんな参拝後には、不思議と抱えていたある迷いがすっと消えて、「よし!心機一転、頑張ろう」という気持ちになれました。ひょっとすると、剣の神である「建布都神」が私の迷いをスパっと断ち切ってくれたおかげ…つまりはご利益だったのかもしれません。
− 続 −
(写真 / 文章:松本剛)
建布都神社へのアクセス
住所:〒771-1610 徳島県阿波市市場町香美郷社本18
県道12号線沿い、ガソリンスタンドのある交差点を左折(南)。
曲がるとこのように道が二手に分かれていますが、「左側」の道路を直進します。
堤防が見えてきました。次に、左折します。
左側の道を進みましょう。
左手に建布都神社の森が見えてきました。あと少しです。前方に3つ、道が分かれていますが真ん中の道を進みましょう。
ここを左折します。
正面に見えるのが建布都神社です。お疲れ様でした。
近隣のスポット
参考文献
市場町史・大正十年版
市場町史・平成八年版
阿波郡誌 / 編纂・近藤有地蔵
古事記 / 倉野憲司 校注(岩波文庫)